上場を目指すにあたっては、一般的な中小企業に多く見られる社内体制から脱却し、上場会社レベルの社内体制を構築していく必要があります。全ての意思決定を社長の一存で決めるような体制や、会社のお金と社長個人の財布が混同されてしまうような経理体制では、上場準備の段階でダメ出しを食らってしまいます。「申請期、直前期、直前々期」の項でも説明したとおり、上場にあたっては上場を申請する期の直前2期について公認会計士の監査を受けることになることから、直前々期から上場会社に準じた社内体制を構築しておく必要がありますが、一度楽なやり方で慣れてしまった会社の体制を上場会社レベルの厳しい体制に変更していくのは労力と時間を要することから、上場を目指すと決めたらなるべく早めに準備していく必要があります。
経理の体制としては、入力者、確認者、承認者の最低でも3人体制をとれることが理想ですが、2人でもなんとか認めてもらえるケースはあるかもしれません。経理に限らず、全ての業務は最低でも実行者と承認者の2人で行う必要があります。一人で業務を行うと、ミスを発見できる体制がとれないばかりか、不正を働こうとした時にその抑止力となる機能が準備できないためです。財務と経理は混同されがちですが、こちらも担当者を分ける必要があります。財務はお金の入と出を管理する立場で、経理はお金の流れなどを記録する立場ですので、これを同一人物が行ってしまうと、資産の流用をしてもそれがそのまま記録されてしまうことにより、予防・発見することが難しくなってしまう可能性があるためです。経理の承認者として管理部長がいる場合、その管理部長がたとえば給与計算についての承認者も兼ねるという組織設計は認められると考えられます。
上記の経理に限らず、全ての業務においては統制活動が必要となりますが、これらは内部統制の構築により行っていく必要があります。内部統制は、社内の全ての業務を記述する業務記述書を用意し、その業務記述書を、どこでどのような不正を働くことが出来るか、またはどのようなミスが起きてしまう可能性があるか、という観点でリスク分析をし、そのリスクを予防・発見するための体制を設計することにより構築して行きます。たとえば、何らかの物品を仕入れる必要がある際に、購買担当者が自分にとって利益のある相手先を自由に選定することにより、他の取引先であればより有利な条件で同一の商品を仕入れることが出来たにもかかわらず、その選択をしないという判断をしてしまうリスクを、購買先の選定、取引の承認、支払代金の決済などのそれぞれの段階において確認者・承認者を設けることにより低減していく、といったような設計が考えられます。この内部統制は、少なくとも直前期においては1年を通して有効に運用させる必要があることから、直前々期の早い段階では構築し、必要な改善をした上で直前期を迎えることが望まれます。
内部統制と同様に、社内の様々ルールである規程類も、直前期では有効に策定し、利用していくことが望まれます。これらは多岐にわたるため、各規程の整合性などにも気をつける必要があり、時間を要してしまいます。またベンチャーにおいては、商品のラインナップや組織体制が頻繁に変更されていくことから、内部統制と合わせて都度変更していく必要があり、日々の管理が重要になります。
上場の審査においては、経理の体制と同等かそれ以上に、予実が大変重要となってきます。特に近年は、上場直後に予算を下方修正した会社が出て大問題になったこともあり、上場準備会社の予算策定能力が審査の重要な項目の一つとなっており、期首に策定した予算を達成する能力があるか(達成可能な予算を策定する能力があるか)、また予算が大きく上振れるまたは下振れることが見込まれる際に、タイムリーに予算修正が出来るかも見られることとなります。上場会社においては、売上が上下10%の範囲でズレる見込みの場合と、当期純利益が上下30%の範囲でズレる見込みの場合に予算修正をしてそれを公表することが求められますが、上場準備会社においても同様の基準での予算管理が求められることとなります。月次で決算をし、予算との対比を行い、どのくらいのズレがどのような理由で起きたのか、またそれを回復させるためにどのような対策をとることができるのか、を説明・実行できるようにする必要があり、取締役会や経営会議での予算管理の運営が非常に重要となります。