YouTuberの所得税が源泉徴収されてしまう?
アメリカのGoogleが、運営するYouTubeから得た収益について、アメリカの視聴者が動画を再生したことで生じる部分については所得税を源泉徴収(天引き)した上で報酬を支払うこととしました(https://support.google.com/youtube/answer/10391362)。対象は全世界のクリエイターで、2021年6月から開始しています。
以前はこのような天引きの措置はとられておらず、日本のクリエイターはそれぞれGoogleから支払われた報酬について確定申告の方法で日本において所得税を納税していましたが、これからはアメリカに源泉徴収の形で所得税を納めた上で、日本においても所得税を申告・納税することになる可能性が出てきました。
YouTuberは源泉徴収から逃れられる?
この変更は、Googleが支払っているクリエイターへの報酬についてアメリカの税務当局への報告義務があるとされたことによります。これまでは広告料として処理していたのですが、ロイヤリティ(著作権等の使用料等)であるという認識に改められたことが原因のようです。
税務の専門的な話になってしまいますが、ロイヤリティについては、海外への支払いを行う場合に源泉徴収を要するケースが多くなっています。ただし、支払いを受ける人と支払う人のそれぞれの国の間で租税条約という、どちらの国がどれだけ税金を課せるかという取り決めが結ばれていて、そこでロイヤリティについての規定も設けられていれば、その租税条約の取り決めに則って課税されることになります。
日本とアメリカの場合は、租税条約は締結されていて、ロイヤリティについても取り決めがあります。結論としては、日本人はアメリカにロイヤリティに関する所得税を納める必要はありません。“ただし”、租税条約の規定の適用を受けるためには、その届出をする必要があります。
Googleは2021年6月の源泉徴収開始前に、Googleに対して税務情報を提供するようクリエイターに要請していました。この税務情報はマイナンバーなどになりますが、これを提供していたクリエイターは、上記の租税条約の規定の適用を受けることができるため、源泉徴収を受けることなく今まで通りに報酬を受けることになります。
一方で、2021年5月31日までにGoogleに税務情報を提供していなかったクリエイターは、租税条約の規定の適用を受けることができないため、アメリカの所得税が源泉徴収された上で報酬が支払われ、さらに日本においても確定申告をして日本で所得税を払うことになってしまいます。
源泉徴収された税金は日本の所得税から引ける?
こちらも少し専門的な話になってしまいますが、国際税務の世界では、“外国税額控除”という仕組みがあります。これは、例えば日本人が何らかの取引により海外で所得税を納めることになった場合、その外国の所得税は、日本の所得税の計算上差し引く(控除する)ことができるというものです。そのため、この外国税額控除という仕組みを利用すれば、Googleから天引きされる結果、アメリカに所得税を納めることになってしまったとしても、結局日本の所得税の計算上差し引けるのであれば、個人として納める税金の金額自体は変更がなさそうに感じられます。
しかし、このGoogleが天引きする所得税については、日本においては外国税額控除の適用の対象外になると考えられています。
これは、所得税法施行令という法令の第221条において、外国税額控除の対象とできる「外国所得税」の範囲が規定されていて、その中で、
3 外国又はその地方公共団体により課される次に掲げる税は、外国所得税に含まれないものとする。
一 税を納付する者が、当該税の納付後、任意にその金額の全部又は一部の還付を請求することができる税
と記載されていて、この“還付を請求することができる税”に、今回のGoogleが天引きするアメリカの所得税が含まれると考えられるためです。
YouTuberの税金はGoogleから返してもらえる?
Googleから天引きされたアメリカの所得税が“還付を請求することができる税”に含まれるのであれば、当然Googleに還付を請求することができなくてはなりません。
2021年12月31日までに税務情報を提供した場合には、Googleに天引きされたアメリカの所得税については、払い戻しが行われる仕組みになっているとのことです(冒頭リンク内のQ&A参照)。
“税率低減の申請が記載された W-8 税務フォームの更新版を期限に間に合うように提出した場合は、Google は源泉徴収額を再計算し、差額を払い戻します。”
と記載されているため、払い戻しを希望するクリエイターの方は早めに提出した方がいいかもしれません。