退職金計算における海外赴任期間の扱い
退職金規程などを設けている会社では、社員が退職した際に退職金を支払うことになると思いますが、対象となる社員が海外赴任により海外子会社に出向等していた場合には、規程上のルールにもよりますが、当該海外赴任期間も勤続年数に含めて退職金の計算をすることが多いかと思います。この場合、計算された退職金のうち海外赴任期間に対応する金額は、海外子会社が負担すべきものであるため、親会社から子会社に請求する必要があります。海外赴任期間中に社員から役務提供を受けたのは海外子会社であるためです。この海外赴任期間中に対応する退職金の額を海外子会社に負担させることを怠ると、親会社から海外子会社への寄附行為とみなされて法人税上不利な扱いを受けてしまうリスクがあることから、退職金の取り扱いには留意を要します。
退職金に関する税金の計算
退職金を受け取った社員としては、既に帰国して日本の居住者となっていることから、受け取る退職金の全てが日本において退職所得として課税されることとなります。受け取る退職金のうち海外赴任期間に対応する部分については国外源泉所得として計算する必要はありません。退職所得控除の計算においても、当然に海外赴任期間を含めて計算することができ、以下のルールに基づき計算することになります。
・勤続年数20年以下:40万円×勤続年数(最低80万円)
・勤続年数20年超 :70万円×(勤続年数-20年)+800万円
なお、具体的な退職所得の金額は、退職金の額から上記退職所得控除額を差し引き、控除後の金額を2分の1にして求めます。
一方で、海外赴任期間中に退職するなど、退職金の受け取り時点で日本の非居住者に該当する状態で退職所得が発生した場合には、日本で受け取る場合とは所得税上の扱いが異なります。日本の会社が非居住者である海外赴任者に対して、日本での勤続期間も含めて退職金を支払う場合には、非居住者への支払いとして日本の会社に源泉徴収義務が生じ、その源泉税率は20.42%となります。さらに、租税条約上の規定にもよりますが、海外在住者として収入を得ることになるため、受け取った退職金は現地国でも課税されてしまう可能性もあります。
海外赴任者の選択課税
退職金の計算式の通り、退職所得については給与所得やその他所得と比較しても税額が低くなるような仕組みが設けられていることから、退職金の金額次第では、日本の居住者として受け取っていたなら所得税がもっと低く抑えられていた、という事態が生じることも考えられます。その場合には、「選択課税」という制度を用いることにより、非居住者が受け取った退職金を、居住者として対象金の支給を受けたものとして確定申告し、源泉徴収された税額との差額について還付を受けることができます。
① 居住国における退職金にかかる税金
② 日本において源泉徴収されることとなる税金
③ 選択課税を利用した場合の税金
これらを勘案して、どのように受け取った退職金について税務手続きを行うかを検討する必要がありますし、所得税がより有利になるよう、退職者への適切なアドバイスをしてあげることが、海外赴任をさせた会社として望ましい対応と考えられます。