海外赴任者に起こりうる二重課税
海外赴任者が、現地国と日本の双方で給与を受け取ることとなる場合でも、居住国での課税が基本となることから、日本では所得税を課されず、日本で受け取る分も含めて現地国のみで所得税を申告・納税すればいいことになります。ただし、これは日本の非居住者に該当した場合の取り扱いであり、海外赴任をしたとしても日本の居住者のままとなってしまい、日本と現地国の双方で所得税が課されてしまう可能性もあります。たとえば、海外赴任者が日本の非居住者となる場合には、1年以上の期間を予定して海外赴任した場合が該当しますが、予め定められた赴任期間が1年未満である場合には、日本の居住者のまま海外赴任をすることとなってしまう可能性があるということです。
海外赴任をした場合には、赴任先の国に居住し給与所得を得ることになることから、当然に赴任先の国で所得税を課されることになると考えられますが、日本の居住者に該当したまま海外赴任をした場合には、同一の給与に対して日本と赴任先の国の双方で所得税を課されるという、二重課税が発生してしまう可能性があります。
海外赴任者が検討すべき租税条約
この場合は、まず租税条約の規定が適用されるかどうかの検討をし、租税条約が締結されていない場合や、租税条約の規定が適用されない場合には、所得税の計算において外国税額控除の適用をすることにより、二重課税を回避することができます。ただし、外国税額控除は、必ず全額を控除できるわけではないため、一部二重課税部分が残ってしまう可能性があります。
赴任先の国が日本との間で租税条約(所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国と○○国との間の条約)を締結している場合には、多くの場合、そもそも二重課税が生じない仕組みが設けられています。いわゆる183日ルールによりどちらか一方の国でしか課税されないルールなどが取り決められているためです。これにより国をまたいで同じ所得に対して二重に課税されてしまう現象は避けることができますが、その適用を受けられるかどうかを調べ、適用を受けられるようにすること、また、適用を受ける際にはその届出をすることが必要になってきます。
租税条約がない場合の二重課税の回避
租税条約で設けられている二重課税の排除の仕組みが適用できない場合や、赴任先の国が日本との間で租税条約をそもそも締結していない場合には、上記の二重課税排除の仕組みは利用することは出来ません。その国の税法の仕組みにもよりますが、日本においては同じ所得に対して海外で税金を納めた際には、その税額を税金の計算上控除することが出来るという仕組みが設けられています。この場合は年末調整のみでは完結せず、確定申告をすることが必要になります。ただし、控除できる税金の額は算定式で求めることとなり、その結果次第では海外で払った税額の一部しか控除できないという可能性もあります。控除しきれなかった税額は3年間は繰り越すことが出来ますが、3年間控除しきれなかった場合は、海外で納めた税金の一部が控除されず、二重課税が解消されないまま終わってしまうという可能性もあります。