海外出張に関する課税関係
海外赴任ではなく、日本本社の社員が海外子会社に様々な支援目的で出張することもあると思います。営業支援、開発支援、製造支援など、現地のリソースの状況に応じてや、当該業務が日本の本社の事業上も重要な場合などには、本社のリソースを海外赴任ではなく(まずは)出張ベースで現地事業に投入することも考えられます。この場合の出張者の人件費負担や出張者の所得税などに関しての課税関係はどのようになるのでしょうか。
海外出張における人件費の負担
まず日本本社と海外子会社との間での人件費の負担関係ですが、本社社員が海外子会社にて業務を支援するわけですから、日本からの出張者の業務は海外子会社の売上増大やコスト削減などの利益につながるものと考えられ、基本的には海外子会社がその人件費を負担すべきものと考えられます。すなわり、出張期間に対応する人件費を親会社から海外子会社に請求するべきと言えます。これを怠ると、親会社から海外子会社への寄附行為とみなされ、寄附金課税をされてしまう可能性が生じます。
ただし、
- 現地において現地法人と共同で行う営業活動が親会社の取引にも貢献し、最終的に親会社の利益となる
- 海外子会社の開発活動が親会社と共同で行っており、その一環として親会社の開発担当者が海外子会社に往査して開発状況のチェックを行う
- 親会社の取引先である最終卸先にて複雑な仕様変更があり、その基準を満たすために子会社の製造活動にサポートが必要となっている
などの場合には、完全に海外子会社の利益のための活動として支援活動を行っているわけではないことから、海外出張にかかる人件費の全部または一部を親会社負担とする余地はあると考えられます。
海外出張に関する所得税
続いて出張者の給料に対する所得税の取り扱いですが、出張期間が183日を超えていないなど、長期間に渡っていないことを前提として考察すれば、出張部分に関する人件費が親会社負担となっている場合には、現地にて人件費負担がされていないため、特段海外における所得などを検討することなく、通常通り日本のみで年末調整や確定申告をすれば課税関係は終了するものと考えられます。
一方で、出張にかかる人件費を子会社が負担することとなった場合には留意が必要になるものと考えられます。最終的に人件費を海外子会社が負担している場合には海外にて給与所得が発生しているものとみなされ、現地にて源泉徴収義務が生じてしまう場合もあるためです。短期滞在者免税の検討の結果、現地でも課税義務が生じていると判断された場合には、現地における所得税の申告・納税が必要となる可能性があります。
なお、短期滞在者免税の検討としては、
- 滞在期間が183日を超えていない
- 報酬が現地国の雇用者などから支払われていない
- 報酬が現地国に存在している恒久的施設で負担されていない
かどうかを検討することとなり、現地法人が出張者の人件費を負担している場合には②または③の要件を満たさない可能性が高いことから、現地国における免税を受けられないこととなってしまう可能性があります。その場合には海外においても所得税を申告・納税し、海外で支払った税金を日本での確定申告で外国税額控除の形で納税額から差し引くことになります。