海外事業や海外赴任に与える影響 

 現在、中国を発信源として新型コロナウィルスが世界的規模で感染拡大し、日本においても対策が迫られています。社員を海外赴任させている企業は社員を緊急で帰国させたり、海外事業を行っている企業が社員の海外渡航を制限したりしています。海外事業からの撤退を表明する企業もあります。

 このような状況下では、社員の安全が何よりも優先されるものと考えられます。一時帰国をさせることや、リモートワークをする仕組みを整えるなど、社員が感染しないように対策をする必要があります。

 ビジネス面でも、契約上の不可抗力に該当する事態であると主張して、取引先が契約破棄を宣言したり、契約履行の遅延の理由としたりする事例も散見されており、事業進行の困難性が増した結果、危険を冒してまで社員を現地に留めておく必要性に乏しいという事態にもなっています。

 新型コロナウィルスに限らず、社員の安全や、ビジネス的な困難性から、海外赴任者に対して通常とは異なる対応が必要となる場面は考えられます。もちろん社員の安全が最優先という前提ですが、対応を検討するにあたっては、税務上の留意点も考慮に入れる必要があります。

海外赴任者を一時帰国させるための費用

 まず社員を一時帰国させる場合ですが、その際の渡航費用やホテル代は旅費交通費として、所得税上は出張手当のように非課税という扱いになるものと考えられます。実態として明らかに社員が危険に晒されていない状況で、社員が希望したからといって交通費等を支給する場合には給与課税とみなされてしまう可能性がありますが、会社が帰国を命じた場合等においては、所得税が課されることはないと考えられます。

 また現地において病院に行く場合の費用ですが、たとえば現在の中国においては医者の診断を受けることも困難な地域もあるようですが、感染が疑われ、業務に支障をきたす可能性や社内で他の社員に感染させてしまう可能性があるような場合には、医者の診断を受けることを会社が命じ、診療代も支給することが考えられます。この場合にも、通常は所得税計算において給与とみなされる可能性は低いと思われます。

海外赴任者を一時帰国させた場合の居住地判定

 次に、社員を一時帰国させた場合の居住地変更による税務上の取り扱いですが、こちらに関しては慎重な取り扱いが必要になると考えられます。今後、経過措置として今回の感染症を原因とする一時帰国を居住者判定の滞在期間に含めないとするような取り扱いが開始する可能性が無いわけではないですが、基本的には居住者の判定は当該国にどれだけの期間滞在していたかを基準とするため、安全を最優先とした結果の一時帰国であっても、日本に長期間滞在していた期間の属する年は日本の居住者とみなされ、日本において所得税が課されてしまう可能性は十分にあると考えられます。この場合には、日本において行った業務に対する給与は日本の国内源泉所得とみなされ、日本の所得税の対象となる可能性があり、支払者(会社)としても源泉徴収義務などが生じる可能性があります。

 今回の世界的な感染の拡大が収束する見通しはたっていませんが、日本に一時帰国させた場合にどのくらいの期間に亘って日本で業務を行うことになるのか、その場合の費用負担をどちらがするのか、などで海外赴任者の所得税の課税関係が変わってくる可能性があるため、日本の滞在期間を検討する際には留意を要します。